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大使と出会い学んだこと

校長 小塩 卓哉

この巻頭言は、いつも年末に書くことになり、今日は仕事納めの十二月二十八日です。年末のせわしい時期だったのですが、昨日私は、生徒会の今年度の執行部五名と生徒会担当の石川直大先生と一緒に、リトアニア大使館、イスラエル大使館を訪問して来ました。

高等学校の生徒が、外国の大使と直接会って話をするということは、めったにないことです。昨日のことなので、記憶が鮮明なうちに、生徒会誌「みなみかぜ」に、昨日の様子を書き留めておこうと思います。

そもそも、なぜ五名がイスラエル大使館を訪れることになったかを説明しなければなりません。

小牧市は、「夢にチャレンジ助成金」という事業を行っています。小牧市在住の学生を対象に、夢へのチャレンジを応援する事業として助成金を支給するというものですが、本校の生徒会執行部の諸君が応募をして見事助成金を獲得したのです。テーマは、「人権百人一首の編纂と紹介を通して、杉原千畝の精神に学ぶ」というものです。本校の生徒会は、この二年間岐阜県八百津町が主催する杉原千畝記念短歌大会に応募をしてきましたが、その短歌大会に寄せられた過去十七年間分の約三万首から、優秀作品百首を選び、杉原千畝の人権・平和の精神を学ぼうという夢チャレンジです。

二十七日は、完成した「高校生が選んだ人権百人一首」を、両国の大使に直接手渡し、千畝という人物がなぜ尊敬されるかについて意見を交換したのです。杉原千畝は、リトアニアの日本領事館で、ナチスの迫害から逃れるユダヤ人を救うために日本通過ビザを発行したことで知られています。領事館が置かれていたリトアニアでは、千畝の名前を冠した道路が建設されたりするほど、国民は千畝の勇気ある行動を長く尊敬し続けているのだと、エギディユス・メイルーナス大使は語っておられました。またイスラエルのルツ・カハノフ大使は、ユダヤ人が被ってきた過酷な運命や、民族を根絶やしにしようと企んだナチスドイツの残虐性に触れられた上で、二千通を越えたビザが直接助けた人々と、その人々に繋がる多数の末裔の存在についても言及をされました。

今回生徒会の五名は、百首を選ぶに際して、それぞれの短歌に込められた、愛、心、勇気の精神を読み取るように努めました。最終的に百首を決定する段には、千畝の母校である愛知県立瑞陵高校(千畝は前身の旧制愛知五中の卒業)を訪れ、生徒会、文芸部のメンバーとも協議をしました。

大使はお二人ともが、百首には五人の短歌が入っているのかと問い掛けられました。実は、今回の事業の代表者である生徒会議長中本颯太君の作品「人類が平和のための代償に失ったのは平和そのもの」のみが入選しており、残りの四名は、応募をしただけに終わっています。しかし、短歌がその魅力を発揮するには、よい読者も必要です。今回は、本校と瑞陵高校の生徒が懸命に作品を読み込んだことで、よりすばらしい百首選となったのではないでしょうか。リトアニア大使は、母国では俳句が盛んだとおっしゃっていました。イスラエル大使は、このような作品は翻訳して、母国の図書館に収めねばならないともおっしゃいました。お二人とも英語が母国語ではないのですが、実に分かりやすい発音でお話になり、本校の生徒も最初は日本語でやりとりをしていましたが、次第に英語で質問したり、回答したりするようになりました。

校長として、今回のミッションを成し遂げた生徒達を実に頼もしく思います。いつかこの五人はもちろん本校の卒業生から、リトアニアやイスラエルとの架け橋となる人材が出ることを期待したいと思います。

ルツ大使は女性です。命を大切にすることこそが、人類の根本の価値観であると言い切られた姿が印象的でした。お二人の大使が、お忙しい中たっぷりと時間をとってくださったのは、何よりも本校の五名の生徒の未来に期待してのことと思います。

両大使館の訪問を終えた後、杉原千畝のお嬢様である杉原美智様、お孫さんである杉原まどか様とも、NPO法人「杉原千畝命のビザ」の事務所でお会いすることができました。千畝の精神が理解されるまでに紆余曲折があったと語られる美智様のお話に熱心に耳を傾ける生徒たちの横顔を見ながら、本校の生徒の心もまた世界平和を育む掛け替えのない土壌の一部に違いないと確信をしました。

高校三年間の間に、豊かな心を養って欲しいと切に願います。

小牧南高校生徒会誌「みなみかぜ」第35号

リトアニア大使御夫妻と↓

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「杉原千畝命のビザ」事務所で↓

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イスラエル大使に人権百人一首を↓

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